前立腺とは
前立腺は膀胱のすぐ下に位置し、尿道のまわりを取り囲むように存在している生殖器のひとつで、男性にしかありません。前立腺から分泌される前立腺液は精液の約30%を占め、精子を保護して栄養を供給し、運動を促す働きを持っているなど、生殖機能に重要な役割を果たしています。さらに、射精の際に前立腺の収縮によって精液が尿道へと送り出され、排尿時の尿道収縮をコントロールする役割も担っているとされています。
男性にとって重要な器官である前立腺は平均的な体積が20mlあり、大きさや形が栗の実に似ています。前立腺肥大症では前立腺の大きさが卵やみかん程度にまで大きくなってしまうため、尿道や膀胱が圧迫されて排尿障害の症状が起こります。日常生活に支障が出てくる場合もありますので、排尿にこれまでと違う様子があったら早めに専門医を受診しましょう。
前立腺肥大症の原因
加齢とともに発症の割合が増える病気で、はっきりとした原因はまだわかっていませんが、男性ホルモンの関与が指摘されています。前立腺は男性ホルモンによってその働きを維持しているため、加齢によりホルモンバランスが変化する影響を大きく受けると考えられます。他の原因には、遺伝や肥満、高血圧症・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病との関連もあるとされています。組織学的な前立腺肥大は30歳代から始まり50歳で30%、60歳で60%、70歳で80%、80歳で90%にみられます。その中で排尿症状を伴い治療を必要とするいわゆる前立腺肥大症は1/4程度と言われています。
前立腺肥大症の症状
さまざまな排尿障害が現れます。
- 1回の排尿量が少なくなり、トイレの回数が増える(頻尿)
- 急に強い尿意を感じ、トイレまで我慢できないことがある(切迫性尿失禁)
- 出はじめるまでに時間がかかる
- 力まないと尿が出ない
- 尿の勢いが弱い
- 途中で尿がいったん途切れて再び出はじめる
- 排尿後も尿が残っているように感じる(残尿感)
こうした排尿障害は、尿路感染症や膀胱結石などを引き起こすリスクを高めますし、腎臓の機能低下が起こって腎不全になる可能性もあります。老化でよくあることと考えていると、生活に支障が出てきたり、深刻な合併症を起こしたりすることも考えられます。排尿に違和感があったら、泌尿器科の専門医に相談してください。
前立腺肥大症の検査
排尿障害を起こす病気は、前立腺肥大だけではありません。そのため、正確に診断する必要があり、下記のような検査を行っています。
直腸診
直腸の一部に隣接している前立腺を触診する検査です。医師が肛門から指を入れて、前立腺の大きさや形、硬さ、痛みの有無などを調べます。炎症の発生やがんなどがわかる場合もあり、重要な検査です。
血液検査
血液を採取して、前立腺がんの有無に関わるPSAという特殊なタンパク質の血中濃度などを中心に調べます。
尿検査
排尿障害がある場合に、その原因となる病気がないかを調べる検査です。採取した尿の成分を分析します。
超音波(エコー)検査
超音波で前立腺の大きさを計測し、肥大の程度などを調べる検査ですが、排尿直後の膀胱に残った尿の量を調べることもできます。
前立腺肥大症の治療
主に薬物療法を行いますが、肥大の大きさや程度、症状などにより、治療法が変わってきます。肥大がかなり進行しているケースや、合併症を起こしていると手術の検討も必要になってきます。そうならないよう、早めに適切な治療を受け、処方されたお薬をしっかり飲んでください。
緊張を和らげる薬
前立腺や膀胱、尿道の緊張を和らげ、尿道を締め付けている前立腺の筋肉を弛緩させる薬で、比較的短期間に効果が現れやすい傾向があります。尿道を圧迫から解放し、尿の通りをスムーズにします。代表的な薬剤には、α1受容体遮断薬、PDE(ホスホジエステラーゼ)5阻害薬などがあります。
前立腺を小さくする薬
男性ホルモンの作用を抑えて前立腺を小さくして、尿道を圧迫から解放して、尿の通りをスムーズにします。効果が現れるまでに数ヶ月を要するタイプもあり、そのタイプは長期間の服用が必要になります。代表的な薬剤には、5α還元酵素阻害薬、抗男性ホルモン薬である抗アンドロゲン薬などがあります。
漢方薬・生薬
漢方薬や植物エキス製剤などにより前立腺の炎症を抑えます。これによって排尿障害などの諸症状改善につながります。
手術治療(上記薬剤に症状の改善が得られない場合)
- 経尿道的前立腺切除術(TUR-P)
- ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)
- 選択的レーザー前立腺蒸散術(PVP)
- 尿道ステントなど
前立腺肥大症における日常生活の注意点
前立腺肥大症は、日常生活に気をつけることである程度の予防や、症状悪化を防ぐことができます。
- 尿意があったらすぐトイレに行き、我慢しない
- 便秘にならないよう心がける
- 身体を冷やさない
- アルコールや刺激物を控える
- 長時間座り続けることを避け、こまめに立ち上がる
- 日常的に続けられる適度な運動を習慣付ける
ご注意
風邪薬や胃腸薬などの中には、前立腺肥大症による排尿障害を悪化させる成分が含まれているものもあります。どんな薬でも、服用する前に医師に必ず確認してください。